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第5回「地下鉄の運転士」
こう暑くては、できるなら薄暗くて涼しい場所で、一人で座ったまま仕事をしたいと思う今日この頃。「でも、誰にも会わずに引きこもるのもイヤ……」。そんなワガママさんに最適な仕事が、地下鉄の運転士である。

当然ながら地下は暗い。車内は冷房が効いてて涼しい。自分一人の空間は確保され(どんな混雑時もイスつき)、駅に着けば多くの人を見られるからひきこもり感もない。まさに不精でワガママな人の天職なのだ。

言っておくが、私は地下鉄の運転士という仕事を甘く考えているワケではない。むしろ、世の中のあまたの仕事の中で、あれほど緊張感を感じる仕事は他にないとさえ思っている。ちょっと大げさだった。すまん。

私は実際に列車を運転した経験はないが、シミュレーションゲームの「●●でGO!」には何度も挑戦した。不器用な私は、乗客から「なんか遅いわ」とか「早すぎる」などとボソボソと文句を言われて逆上し、「次の駅なんか停まってやるもんか!」と叫んでアクセルを全開にするという暴挙に出たものだが、実際の運転士はそういうワケにもいかないわけで、そう考えると、混雑時に数千人の命を預かりつつあの重い電車を数センチ単位でコントロールするのは、そうとうな緊張感があるに違いない。そして、文章がだらだらと続くのは読みにくいに違いない。

それだけではない。地下鉄の線路は意外にカーブやアップダウンが多い。また暗いトンネルを走るのは、常に先の見通しが利かないということでもある。これは大変な緊張感である。むしろレールがあるから走れるのだ。これが自動車なら絶対に運転できないはずだ。

もっと怖い存在もある。そう、言わずと知れた「住む世界が違う人たち」、早い話がオバケである。普通の電車なら怖いのは夜だけですむのだが、地下鉄は一日中が夜みたいなものである。これが怖くないはずがない。

でも、ここまでの緊張感なんて、まだまだである。どれくらい「まだまだ」かというと、元・極楽とん●の山●の芸能界復帰くらい「まだまだ」である。「あり得ない」っていう話もあるけど。

最大の緊張とは、そう、誰もが一度や二度は冷や汗を流した「ベン・E」である。「スタンド・バイ・ミー」ではない。いわゆる「便意」である。人間なのだから、運転中に便意を催すこともあるだろう。聞けば、同じ地下鉄の乗員でも、車掌には新聞紙を敷いてナニをナニするという最終手段があるらしいが、先述したように常に細かく車両をコントロールする必要がある運転士に、悠長に新聞紙を広げる余裕があるはずもなく。

どうする? どうなる?

当然、ナニはナニになるわけで。考えるだけで恐ろしい。一歩まちがえれば大惨事である。いろんな意味で、いろんな場所が。

これだけ緊張感のある、大変な仕事なのだ。だから私たちが普段から普通に地下鉄に乗って、普通に会社に行ったりするのは、もう奇跡のような幸運の積み重ねに違いない。そう考えれば、私たちが仕方なく行っている「地下鉄の通勤」という殺伐とした行為が、とてもありがたい行為に思えてくるに違いない。

え? 違う?


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