学芸員とは、美術館や博物館で、資料の展示や収集・保管・研究を行う国家資格。読者の中にも「夢は学芸員」という人も多いと思う。
しかし、どの仕事もそうだが、学芸員も決して楽な仕事ではない。特にアートの形が多様化した今日、学芸員もそれ相当の受難がある。これは、私が実際に目撃した学芸員の話だ。
私は東京の某美術館で、最近の若いアーチストの特集を見ていた。その中に、100畳ほどの広いスペースいっぱいに、山や海のジオラマがしつらえてあった。中に入ると、そこには、おびただしい数の「GIジョー」がうごめいていたのだ。
GIジョーとは、アメリカの兵士の人形で、ネジをまいて床に置くと、せわしなく腰を振って匍匐(ほふく)前進をするオモチャ。いちおう言っておくけど、ブートキャンプのビリーとは無関係だ。
ここで使われていたジョーがオリジナルと違っていたのは、全員が迷彩服ではなくスーツを着ていたということ。つまり、スーツを着た無数の人形が、ギーギーと嫌な音を立てながら海や山を匍匐前進していたのだ。
それは、ポップでカジュアルな地獄絵。
あまりの衝撃に、タイトルや作者名を確認するのも忘れ、しばらくその地獄を眺めていた。
多分、作者が意図したのは、
「結局、世界ってこういうことでしょ?」
なのだと思う。
しかし私が眺めていたのは、腰をくねらせてうごめく無数の人形だけではない。先ほどから、一人の男性がジオラマの中で何やら作業をしていたのだ。彼は手近なジョーをつまみあげ、ギシギシとネジをまき、再び地面に置いている。再び腰をくねらすジョー。男は無心にその作業を繰り返している。
近寄って、何をしているのか尋ねてみた。
「止まってる人形のネジを巻いてるんです」
なるほど。確かに、誰かがネジを巻かないと人形は動かないからなあ。
『それにしても、一日中、ずっと巻いてるんですか?』
すると男は自嘲気味に笑って、
「3カ月前から、毎日ずっとネジを巻いてます」
『それは大変だ』
「それだけじゃないんです」
手だけは忙しくネジを巻きながら、男は続けた。 |