しかし私は考えたのだ。
あまりドームの中で取材色を前面に出していると、周囲から奇異な目で見られるかも知れない。血気にはやったドラゴンズファンから「こいつ、取材してやがる!」なんて袋叩きに遭うかも知れない。それは嬉しくない。私は痛い目に弱い。人一倍弱い。殴られたら即死するかも知れない。私が即死したら、殴った人は殺人犯になってしまうのだ。それは心苦しい。
ならば、取材だとばれなければいい。
そこで一応、本当に一応、背中に「TATSUNAMI」と「3」とプリントされたTシャツを着て行った。それだけでは足りない気がしたので、念のため、本当に念のため、青と白のメガホンをカバンから出してみた。さらに「木は森に隠す」の諺に倣い、周囲の人々と同じように応援歌を熱唱してみた。なぜかスラスラ歌えたのが不思議だった。
そしてダルビッシュの快投にうなり、荒木・井端の好守に拍手を送り、藤井の犠牲フライに歓喜した。
「うおー! いーぞー!」
山井は素晴らしかった。その山井を交代させてまで勝ちにこだわった落合の度量も大したものだった。そして、期待に応えてみせた岩瀬も見事だった。
気づいたら、目の前にビールの紙コップが3つも転がっていた。隣の人が飲んでいたのを見た記憶がないから、ビールを飲んだのは私である可能性が高い。さすがである。取材をカムフラージュすることに夢中で、取材を忘れたような気がしていたが、知らないうちにビール売りの兄ちゃんと会話をし、貴重な情報を入手していたようだ。
記憶の片隅から、ビール売りの兄ちゃんとの会話を思い出す。
「ビールいかがですか?」
「一本ちょうだい」
「はい、お席まで行きます!」
「いくら?」
「600円っす」
「えーと。はい」
「あーい。おつり400円っす。
ありがとうございました!」
……どうだろう。完璧に再現してみた。
この取材で分かったことは、ビールが600円であること、兄ちゃんが席まで持ってきてくれること、そして、中村ノリはMVPの賞金だけで今年の年俸分と同額くらいを稼いでしまったということである。そらー、感涙にむせぶのも無理はない。
というわけで、ナゴヤドームのビール売りの大変さを余すところなく伝えられたと思う。
え? 伝わらない?
今さらそんなことを言われても困る。もうシリーズは終わってしまったのだ。……分かった。そこまで言うなら、来年の日本シリーズに再取材に行こう。約束しようじゃないか。 |